Hush-Hush: Magazine

映画の批評・感想を綴る大衆紙

ナチュラル: 天性の才能はすぐに開花するとは限らない

ナチュラル 映画



 

あらすじ

神童(ワンダーボーイ)と呼ばれた野球選手ロイ・ハブス(ロバート・レッドフォード)はプロ入りを目前にして不幸な事故に巻き込まれる。様々な紆余曲折を経て、挫折を味わったかつての神童は35歳にしてようやく日の目を見ることになる。弱小球団「ニューヨーク・ナイツ」へ入団したロイは、ヒットを連発してチームを変えていく。遅咲きのオールド・ルーキーが送った壮絶な半生を描いた野球映画の名作。

 

 

Spoiler Warning——ネタバレを含みます

 

遅咲きの俳優:ロバート・レッドフォード

 

ロバート・レッドフォードは不遇の人だった。本作の主人公ロイ・ハブスが辿った紆余曲折の人生のように、レッドフォードもまた映画俳優として名を成すまでに様々な挫折を経験している。野球の特待生として大学に進学したレッドフォードは、投手として活躍するも飲酒が発覚して中退を余儀なくされる。その後は画家を目指してヨーロッパへ渡るが、志半ばでアメリカに帰国。その後、演劇学校で舞台美術を学び、それからようやく俳優に転身することになる。この時、レッドフォードは23歳であった。

 

その後も役柄に恵まれずキャリアは低迷し続け、『明日に向って撃て!』で知名度を上げるまでには約10年の歳月を要した。ここからの輝かしいキャリアは、映画ファンのよく知るところである。二枚目俳優として数々の映画に出演し、『スティング』では再びポール・ニューマンと共演し、初めてメガホンをとった『普通の人々』ではオスカーに輝いた。

 

本作『ナチュラル』はレッドフォードが48歳の時に出演した作品である。かつては神童と呼ばれ、狂女の銃弾に倒れて空白の10年間を経て、ようやく日の目を見たロイ・ハブスが全米を席巻する様子は、レッドフォードの人生とかぶって見える。本作への出演を熱望したというレッドフォードは、ロイが辿った不遇の人生の中に自分自身を見出したのかもしれない。

 

銃弾に倒れてから、遅咲きのメジャーデビューを飾るまでの空白の10年間は本編で描かれていない。観客は、彼が味わったであろう挫折と苦悩を想像するしかないのだ。強打者から易々と三振を勝ち取るほどのピッチング能力は、銃弾によって封じられてしまった。病室で目覚めた時のロイの心境は、想像に絶するものがある。

 

野球こそが人生のすべてである人間から、野球を奪い取れば後に残るのは絶望だけだ。天性の才能があると言われながらも、それをなかなか開花できずに過ごした空白の10年間。その欠落を敢えて描かないという演出上の決断が、王道的なエンタメ作品である本作にうっすらとした影を落としている。

 

野球はいつから運ゲーになったのか

 

『ナチュラル』は王道的なエンタメ映画である。主人公はマイナスの状態からスタートし、中盤でプラスに転じてクライマックスでは再びマイナスに陥る。そして、息を飲むフィナーレでは辛くも勝利を手に入れてハッピーエンドを迎える。慎ましやかなハリウッドの伝統的なストーリーだ。

 

1人の少年が大人になって挫折を味わい、苦心惨憺の末にメジャーデビューを飾る。数十年もの時間を跳躍してみせるストーリーには、心を奪われずにいられない。

 

でもね、一言だけ言いたいことがある……

 

野球はいつから運ゲーになったんですか!

 

ロイが謎の女に銃撃されるオープニングのシーンは、私の期待値を肯定的な意味で大きく裏切ったけれど、その底上げされた期待値を小馬鹿にしたようなツッコミどころ満載の展開たるや……

 

ずっとベンチ扱いだったロイが、ようやくバッターボックスに入ってヒットを飛ばす。ここまでは良い。でもね、髪型を気にしてエラーを連発する田舎のチンピラ、バンプをあっさり殺しすぎじゃないか?

 

キム・ベイシンガー演じるファムファタール、メモとはいい感じでデキてるし、ロイはベンチから昇格させる必要がある。「う〜む。邪魔だな、コイツ消そうぜ」という脚本家の声が聴こえてきそうである。というか、聴こえました、はい。

 

でもって、メモとイチャイチャし始めたら成績は左前になるわ、チームは負け続けるわ、挙げ句の果てが幼馴染のアイリスがスタンドで立ち上がったらヒット打っちゃうという、日曜朝の戦隊ヒーローもびっくりなご都合主義。しかも、アイリスが立ち上がった時には、ご丁寧なことに後光まで差し込んでくる周到っぷり。

 

アイリスといい感じになった途端にヒット連発ですよ、奥さん! もはや「ワンダーボーイ」ならぬ「プレイボーイ」である。

 

野球はいつから運のゲームになったのか。ヒットを連発して時計やら、窓ガラスやら、スタジアムのライトやら、あらゆるものを壊しまくるロイ。

 

そんなアホな……

 

極め付けはクライマックスのシーン。雷鳴が轟き、稲妻の閃光が走るとワンダーボーイのバットが折れる。雷のクドい演出は、ロイが始めてヒットを飛ばした時にも使われている。この仰々しさ、もはや漫画である

 

散々言っておいて説得力に欠けるけど、私はこの手の王道的エンタメ映画が大好きだ。以前も言ったように、エンタメ映画とは多少のツッコミどころには目を瞑って、楽しめたらそれで十分なのだ。リアリティーが無い? 様式化され過ぎてる? そんなことは脇に置いておいて、最後のハッピーエンドの瞬間に向けて全力で楽しむ————これがエンターテイメントとの向き合い方である。

 

だが、そんな寛大な私でさえ思わず突っ込まずにはいられないほどのご都合主義的な展開。いや、ここまでくると一周回って凄いんじゃないかとすら思えてくる。

 

最後は期待通りのハッピーエンドを迎えたし、文句は無いんだけど、あまりにもやり過ぎた感があって突っ込まずにはいられない……

 

時間を跳躍するストーリー

 

バーナード・バラマッドの小説を映画化した本作。原作は読んだことが無いのだけれど、映画版では脚本の構成が素晴らしかった。

 

父とキャッチボールに興じる少年時代から始まり、バットを自作してアイリスと結ばれ、汽車に乗って入団テストに赴くまで、十数年間の時間をたった数分で描くオープニングシーン。

 

始まって早々に巨漢の強打者との対決が訪れ、観客は「はっはーん、コイツが主人公のライバルになる男なんだろ」と高を括る。見事三振を勝ち取ったと思いきや、汽車の中で仲良くなった女に銃で撃たれる。この二転三転する急展開が、全てオープニングのシーンで展開する。

 

スポーツ選手ばかりが殺害されているというニュースは、汽車の中でロバート・デュヴァルが読んでいる新聞に書いてある。このさり気なく忍ばせた伏線の回収も、実に鮮やかではないか。

 

あまりにも事態が急転するので、観客はストーリーが動き始めたと勘違いしそうになるが、少なくともこの時点で、まだストーリーは始まっていない。銃弾に撃たれてから16年の月日が流れ、ロイがニューヨーク・ナイツのベンチに入る瞬間から、ようやくストーリーは胎動する。

 

何と素晴らしい構成だろう。観客が混乱する寸前までテンポを早めた展開に、さすがのヒッチコックも天国で驚いているに違いない。一度、日本のテレビドラマのプロット数と、ヒッチコック映画のプロット数を比較したことがある。驚くことに、ドラマで45分かけて描かれていたプロット数をヒッチコックはたった30分で描いていた。つまり、ヒッチコックの映画はそれだけ情報の密度が濃いということになる。

 

だが、情報の密度では『ナチュラル』も負けてはいない。幼少期から引退まで、1人の野球選手の半生をたった2時間で描き切ったストーリー構成。この大幅な時間の跳躍こそ、映画が総合芸術たる所以だ。

 

映画は時間と空間を大きく跳躍できる。まったく別々の場所を交互に見せればクロスカッティングになるし、時間の流れを断ち切って一気に数年を経過することも、タランティーノのように時間を切り分けて再構成することだって可能なのだ。

 

時間と空間を自在に操って観客にある種の感情を抱かせること————これこそ、映画の演出なのだ。

 

光と陰とスローモーション

 

『ナチュラル』は、コテコテの演出が随所に目立つエンタメ映画である。ファム・ファタール、メモが着ている服は「奥さん、お通夜帰りですか?」と問いただしたくなるほどに真っ黒である。それとは対照的に、ロイの幼なじみアイリスはアリエールのCMよろしく、常に純白の衣服に身を包んでいる。

 

唯一、目新しい演出があるとすれば、1930年代当時の映像フッテージを使った街の描写だけである。エスタブリッシュ・ショットとして、実際の映像を使うある種ドキュメンタリー的な演出は、予算の都合から生まれたものなのだろうが、結果的には作品に現実味とメリハリをもたらしている。

 

分かりやす過ぎる、あまりにもあからさまな演出は映像面にも表れている。巨漢の強打者とロイが対決するときは、柔らかな陽光が画面を包み込む。冒頭のシーンで、入団テストへと向かう前日にアイリスと小屋で逢い引きする時、2人の陰はシルエット化している。悪女メモと森の中でいちゃつくシーンでは、『きみに読む物語』顔負けのロマンチックなライティングがムードを形成する。水面に反射した月光というコテコテの演出も、『塔の上のラプンツェル』のキスシーンで使われれば最高にロマンチックだけれど、『ナチュラル』で使われると途端にクリシェと化す————この違いは何なのかしら?

 

映画 ナチュラル

© 1984 TriStar Pictures, Inc.


本作のヴィラン、判事の部屋は『ゴッドファーザー』ばりの陰鬱とした空気が漂っている。「幼い頃は暗闇が怖かった。だから、自分を鍛えて暗闇への恐怖心を克服したんだ」とか、中二病をこじらせたティーン・エイジャーが言いそうな妄言を抜かすあたりが、いかにも悪役っぽい。

 

クライマックスでは判事、メモ、アルの3人が結託して、ニューヨーク・ナイツを勝たせまいと暗躍する。このヴィランたちの勢力が望外に強くて結構焦る……

 

敵が強ければ強いほど、倒したときの達成感は高くなる。これはエンタメ映画のセオリーである。『スター・ウォーズ』にはダースベイダーという強敵がいたし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にはビフ・タネンという小賢しい悪党がいた。『ナチュラル』はこのセオリーを見事に踏襲して、悪役と主人公のパワーバランスを絶妙に設定している。主人公ロイよりも、悪役たちの方が僅かに勝っているという微妙な均衡を作り出しているのだ。ヴィラン達はロイを買収しようと持ちかけたり、投手を買収して八百長を仕組んだり、新聞記者を使ってロイの過去を暴露しようとしたりと、あらゆる手段で攻撃を仕掛けてくる。四方から押し寄せるこれらの圧力に屈せず、奮闘するからこそ、クライマックスでロイがホームランを打った時に最大級のカタルシスが生まれる。

 

また、本作で随所に使われているスローモーションも、たまに使うのならメリハリに効いた映像表現に成りうるけれど、本作の場合は使いすぎである。思わず「あんたはウォン・カーウァイの亜種か」と突っ込みそうになったわ……

 

例えば、冒頭の少年時代のシーン。ボールをキャッチした少年が横倒しになるのをまじまじとスローモーションで見せる————うん、これは良しとしよう。

 

でもね、落雷で木が真っ二つになるところとか、ロイが打ったり投げたりする(ほぼ毎回)ところとか…… そんなに使ったらアカン。

 

でもって、極めつけはクライマックスのホームランのシーンですよ!

 

大きくアーチを描いてスタジアムのライトに当たるボールをスローモーションで捉える————うん、これはまぁよくある演出だよな。

 

でもね、ライトが火花を散らして崩落していく様子をご丁寧に10秒間もかけて見せる必要はないんじゃないか、バリー・レヴィンソン監督……

 

映画 ナチュラル

© 1984 TriStar Pictures, Inc.

思わず「またかいな……」と独り言ちたわ。

 

でもって、スローモーションはこの後もまだ続く。グラウンドを凱旋するロイの姿を、これでもかと言わんばかりに長々とスローモーションで見せるではないか。

 

いや、もうお腹いっぱいです、結構です……

 

良くも悪くも、王道的エンタメ演出の塊のような映画である。

 

成功の鍵は忍耐強さ

 

『ナチュラル』は果てしなくエンターテイメントな映画である。快調と窮地が交互に到来し、クライマックスで緊張感はピークを迎え、最後にはハッピーエンドが訪れる。

 

物語の中盤でアイリスの家にロイが訪れた時、観客は彼女の息子の父親がロイであることを、それとなく察する。でもって、クライマックスでロイがピンチに陥ったときに、この息子が起爆剤となることも予想がつく。

 

そして、クライマックスではこの予想通りの展開となるのだけど、結末が分かっていても画面に釘付けになるのは『ナチュラル』が本物のエンタメ映画である証しだ。

 

エンタメ映画でありながら、『ナチュラル』には強烈なメッセージ性がある。どれだけ挫折して、人生で紆余曲折を経ようとも、最後まで夢を諦めずにひたすら耐え忍ぶこと————つまりは、忍耐強さこそが成功の鍵なのだと、『ナチュラル』はロイの半生を通して観客に語りかける。

 

神童(ワンダーボーイ)と呼ばれ、天性の才能があると周囲から言われても、それはいつ開花するか分からない。数年後かもしれないし、10年後、もっと先かもしれない。自身の才能に甘んじることなく、ひたむきに自分を信じて夢を追いかけ続けることこそが、最も確実な道なのだ。

 

P.S.

クライマックスでロイがメモに向かって、「やっぱり一度会ってた」というセリフがあるが、この部分だけが腑に落ちない。おそらく、この伏線となる場面があったのだろうが、編集段階でカットされてしまったのだろう。でないと、わざわざこんなセリフを脚本段階で残すとは考えられない。

 

おすすめ度 

 

作品情報

原題:The Natural

監督: バリー・レヴィンソン

脚本:ロジャー・タウン / フィル・ダッセンベリー

 

撮影監督:キャレブ・デシャネル 『ライトスタッフ』

音楽: ランディ・ニューマン 『トイ・ストーリー3』 『シービスケット』

編集:ステュー・リンダー

 

製作会社:トライスター・ピクチャーズ

配給会社:トライスター・ピクチャーズ / コロンビア映画

上映時間:144分

 

制作費:2800万ドル………*1

Imdbスコア:7.5………*2

Rotten Tomatoスコア:82………*3

*1:Source

*2:2019/05/13時点

*3:2019/05/13時点