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ザ・テキサス・レンジャーズ : おっさん2人の渋さに痺れる映画

ネットフリックス映画 『ザ・テキサス・レンジャーズ』

 

 

あらすじ

1934年 テキサス州。全米で犯行を重ねる「ボニーとクライド」一味に対する警察の捜査は暗礁に乗り上げていた。腹に据えかねたテキサス州知事ファーガソン(キャシー・ベイツ)は、超法規的措置を採る————かつてのテキサス・レンジャー、フランク・ヘイマー(ケヴィン・コスナー)に悪党たちを始末してもらおうと。妻の手前、最初こそ気乗りしない風を装っていたフランクだが、日に日にエスカレートしていくボニーとクライドの犯行を知り、次第に彼の正義感がくすぶり始める。妻にしばしの別れを告げたフランクは、元相棒メイニー・ゴルトと共にボニーとクライドの追跡を開始する。老練のテキサス・レンジャー2人が全米を跋扈する若造2人を追いかける。

 

補足

テキサス・レンジャーとは

アメリカ テキサス州にのみ存在する法執行機関。警察官的な位置づけ。歴史は古く、17世紀にまで遡る。テキサスの秩序を守るべく現役で絶賛稼働中。

 

Spoiler Warning——未見の人をガン無視でネタバレしまくってるので注意

 

おっさん2人の渋さに痺れる映画

 

ネットフリックスのオリジナル映画には中途半端な作品が多い。有名な俳優を起用して、モダンな映像美を随所に盛り込んでいるのに関わらず、ストーリーがB級の残念な作品が多い。これまでトレーラー詐欺に何度も遭ってきたので、なかば地雷を覚悟して再生ボタンを押したのだけれど、いやはや、なかなかどうして面白いではないか!

 

「散々訝ってホンマすんません」とテレビ画面に土下座しそうになった。あのね、とりあえず渋い! 何が「渋い」かって、徹頭徹尾「渋い」のよ!

 

1994年公開の『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で既に黄色信号だった頭頂部が、いい具合にハゲ散らかっているウディ・ハレルソン。(20年以上経ってもなお両サイドを辛うじて死守しているのが奇跡に思えて仕方ない

 

『アンタッチャブル』『JFK』でタフなグッドメンを演じたケヴィン・コスナーは、年を重ねてより凛々しさを増している。このタフなオジさん2人がテキサスを走り回って銃をぶっ放す————なんて素晴らしい映画だ! オジさん大好きな私には恍惚ものでした、はい。

 

ケヴィン・コスナー演じるフランク・ヘイマーは、スリーピースの似合ういかにもポリ公といった男だ。対する、ウディ・ハレルソンはハゲ散らかった頭頂部にアクセントを添えるかのようなサスペンダー・スタイル。うん、渋い。じつに渋い。

 

2人のオヤジが狭い車内で肩を並べてドライブする姿は、どこか微笑ましくすらある。絵的にいいよね、おっさん2人が肩を並べてドライブする。うん、じつに美しい絵面じゃないか————とにかく渋い、むさ苦しい。

 

ハットを被った2人が歩く姿は、まさに20世紀初頭の捜査官といった貫禄がある。1900年代初頭を象徴するアイテムとしてハットは必需品だ。他の作品では温厚そうに見える人物もハットを被らせれば、たちまちタフガイに変貌するのだから、このアイテムの重要性がよく分かる。(というか、私が個人的にハット大好きなだけなのかもしれないけれど)


『ロード・トゥ・パーディション』ではトム・ハンクスが寡黙なマフィアに変身したし、『パブリック・エネミーズ』ではジョニー・デップがタフガイに変身を遂げた。

 

州知事からのお願いに最初こそツンデレっぷりを発揮していたフランクだが、ラジオで流れるボニーとクライドの犯行を聴いているうちに、居ても立っても居られなくなる。フランクはこういう男なのだ。まさに正義のヒーローを地で行く、根っからの警官である。

 

かくして、生ける伝説フランク・ヘイマーは御老体に鞭打って悪党退治へと赴く。なまった身体を慣らそうと、少年に空瓶を放ってもらって射撃練習に精を出すもことごとく命中しない。おい、大丈夫か、おっさん……

 

ボニーの実家では少年を追いかけるも、根気よりも先に身体が悲鳴をあげる始末。このくたびれた感じ、マイナスからのスタートという状況設定、じつに胸熱である。この時点で私のテンションは天井を突き破らん勢いで跳ね上がった。頑張るおっさんは文句なしにカッコいい。

 

そして、もう1人のおっさんにしてフランクの元相棒: メイニーはというと、娘の家で厄介者扱いされている体たらく。くたびれたシャツにハゲ散らかした頭頂部————かつての剽悍っぷりは毛髪と共に消えてしまった。孫の頭を愛情たっぷりに撫でるメイニーの目には、人殺しの冷徹さなど微塵もない。そもそも、銃を手にとったのも数年ぶりだとか。そんなメイニーを傍目に「おいおい、しっかりしろよな」と檄を飛ばすフランク。

 

いやいや、お前もメイニーのこと偉そうに言える立場じゃないからな。

 

最初こそ「本当に大丈夫かよ、この2人」と心配していたものの、捜査が進むにれて熟練のテキサス・レンジャーの本領が発揮される。事前に調べてきたであろう銃のカタログを片手に、次々と物騒なライフルを購入していくフランク。「脱獄し損ねたあのスットコドッコイを泳がせれば早くね?」と機転を利かせるメイニー。

 

うん、やっぱり腐ってもテキサス・レンジャーだな。ちょっと安心した。

 

でも、ウディ・ハレルソンの小便の多さには一抹の不安を覚えなくもない。車内で朝を迎えたシーンでは、起き抜けに用を足す。ボニーとクライドと最初に出会うシーンでも、ウディ・ハレルソンは気持ち良さそうに用を足している。そして、挙句の果てにはバーのトイレで用を足している最中に襲われる始末。

 

かつてこれほどまで、おっさんの小便にフォーカスを当てた映画があっただろうか。対するケヴィン・コスナーもハンカチで口をぬぐう回数では負けてはいない。「どんだけ口拭くねん!(笑)」と思わずツッコミを入れたくなるほど、始終ハンカチを片手に握りしめているケヴィン・コスナー。「お、やっとハンカチをしまったな」と思えば、すぐさまタバコに火をつける。このオヤジ感が本作の全てだ。極限までに渋くておっさん臭い、だがそこがいい!

 

捜査は大詰めを迎え、フランクはクライドの父親と対面する。「ホントは悪い子じゃないんだ。根っこの部分は良い奴なんだよ」というオヤジの懇願など目もくれず、「悪い奴は始末せにゃならん」の一点張りでゴリ押しするフランク。しまいには、オヤジから「早く殺してやってくれ」と頼まれる。実の父親からも見放されるクライドに同情しそうになったけど、フランクが語る自身の過去を聴いたらそんなセンチな気分も吹き飛びました、はい。

 

牧師を目指すようなピュアな青年が散弾銃で3箇所も撃たれるなんてトラウマ以外の何ものでもないと思うぞ…… それと比べれば鶏を盗んだクライドなんぞ、吉田沙保里に喧嘩を売るチンピラと同じくらいちっぽけに感じる。

 

警告はしたぞ! したからな!

 

法執行機関らしく警告してから発砲するのがかつてのテキサス・レンジャーだった。だが、そんなお行儀の良いテキサス・レンジャーをアウトローの彼方へと叩き込んだのは他でもない、フランク・ヘイマーその人である。

 

終盤のシーン、「死のバレエ」の前夜、テーブルを囲んでポーカーに興じるメイニーがかつてのフランクについて仲間の保安官たちに話して聞かせる。


「パイセン! 50人もぶち殺したってホントっすか?」と空気を読まずに質問する若造テッド。好奇心丸出しで訊ねるテッドにメイニーはドヤ顔で答える。
「たった一晩で50人だ」

 

フランクがテキサス・レンジャーに投入されるや、悪党を退治する手段は何でもありのフリースタイルと化した。悪党が眠っている隙に襲おうが、警告も無しに発砲しようが悪党を倒せば万事OK牧場。これがフランクの主張である。仮りそめにも法の番人の口から発した言葉とは信じがたい非道っぷり。「まさに外道」とはこのことである。悪名高いJ・エドガー・フーヴァー長官も、ワイアット・アープも、今頃みんな雁首揃えて墓場で腰を抜かしているに違いない。

 

対するメイニーは良くも悪くも人情の厚い男だ。ウディ・ハレルソンのくりんとした目を見よ! あのがっしりとした体躯とアンバランスを成している乙女ちっくな瞳を! いかにも「優しいおっさん」オーラが充満しているじゃないか。釈放したマクナブが殺されたときには「俺のせいなのか……」と自責の年に苦しむセンチなおっさんなのだ。

 

とは言え、ストイック過ぎる正義感が前面に出ているだけで、フランクも根っこは「優しいおっさん」なのだ。いよいよボニーとクライドを待ち伏せする前日には、ネイビーのネクタイとジャケットを用意する————この周到な準備こそ、2人の死に敬意を払っている証しだ。

 

そして迎えるクライマックス。『俺たちに明日はない』の衝撃的なラストシーンが有名すぎて、何が起こるのかは全人類が知るところなのだけれど、映画ファンの間では漢検2級レベルで常識と化したこの名シーンに、新しい風を吹き込むのが本作『ザ・テキサス・レンジャーズ』なのだ。

 

「手を挙げろ」と警告を発するフランク。(なんだよ、やればできるんじゃないか)虚をつかれてたじろぐボニーとクライド。一瞬の間を置いてからトンプソンマシンガンに手を伸ばすボニー。それを察して合図を送るフランク。そして放たれる容赦ない銃弾の嵐————87発の銃弾がV型8気筒エンジンに無数の穴を穿つ。蜂の巣になったV8フォードを前にして、メイニーがスペイン語で再度警告を発する。

 

なんて美しいクライマックスだ! 『俺たちに明日はない』のラストシーンを初めて観た時と同じくらいの衝撃が走ったわ!

 

悪党を仕留めたはずなのに、街中は狂気じみた悲壮なムードに包まれている。ボニーとクライドの亡骸にたむろする群衆を眺める2人には、どこか寂寞とした空気が漂う。

 

そして、ラストシーンでは素直に運転席をメイニーへ明け渡すフランクが描かれる。最初はあれだけメイニーにハンドルを握らせまいとしていたのに、やっぱり御老体に長距離ドライブはしんどかったのね。

 

2人の関係が変化したことが分かるシンプルなラストシーン。ネットフリックス映画の常套手段、いかにもアクションシーン満載ですよと言わんばかりの詐欺まがいの予告編に騙されちゃいけない————本編は徹頭徹尾「渋い」のだ。

 

そもそも、壮年期を終えようとしている老人2人に派手なアクションを期待するなんて、レースを終えたサラブレッドに鞭を打つようなものだ。だが、派手なアクションこそないものの、老練のテキサス・レンジャーならではの豪胆な立ち回りは見応え十分————それから、とりあえず渋い、むさ苦しい、オヤジ臭い。だが、それがいい!

 

(´-`).。oO( 本編ではカットされていたが、予告編では歯ブラシを持った間抜けなウディ・ハレルソンのシーンが拝める。本編でも見たかったなぁ。)

 

「よう、元相棒。歯はちゃんと磨くから、連れってってくれよな」

(連れて行ってやりたいのはやまやまなんだが、お前の場合は歯よりも脇汗が……)

 

新しい視点で描く『俺たちに明日はない』

 

『俺たちに明日はない』はボニーとクライドの視点から、彼らの波乱万丈な生き様を描いた。対する本作『ザ・テキサス・レンジャーズ』は、逆の視点から同事件を描いている。

 

『俺たちに明日はない』はフェイ・ダナウェイの妖艶な美しさが全てである。フェイ・ダナウェイの登場シーンの色っぽいことったら、もはや無形文化財レベル。刑事コロンボ第62話『恋に落ちたコロンボ』でコロンボが惚れたのも頷ける。そりゃぁ、あんな蠱惑的な表情されたら流石のコロンボでもコロっと逝ってまいますわな。(ダジャレじゃない

 

対する『ザ・テキサス・レンジャーズ』はというと、テキサスの砂漠のごとく果てしなくむさ苦しいおっさん2人の渋さが全てなのだ。おっさん2人に全力でフォーカスするために、ボニーとクライドの顔をクライマックスまで明示しないという徹底っぷり。「若造はラストまで引っ込んでろ! 」と言わんばかりの徹底っぷりである。

 

そんなおっさん達が始終画面に登場する本作における、数少ないオバちゃんからも目が離せない。————私が大好きな映画『タイタニック』で浮沈のモリーを演じたオバちゃん、キャシー・ベイツが知事役で登場している。腹黒いけど人当たりのいいオバちゃんを演じれば右に出る者がいないキャシーおばさん。相変わらず安定感がすさまじい————「100人乗っても大丈夫」なイナバの物置に勝るとも劣らない安定っぷり。

 

『俺たちに明日はない』のラストシーンは、『イージーライダー』でハッパをキメるデニス・ホッパーと並んでアメリカン・ニューシネマの幕開けを宣言した。過剰に銃撃されて蜂の巣にされたボニーとクライドは、観客に凄まじい衝撃を与えた。

 

あまりのインパクトに『ゴッドファーザー』でフランシス・フォード・コッポラ監督がオマージュしたほどに。「死のバレエ」と呼ばれるあの有名なラストシーンは、今や「キューブリックの凝視」「デ・パルマ・ショット」と同じレベルで映画用語と化した。(と勝手に思っている)

 

映画史に残る名シーンは本作でも再現されているけれど、再現度の高さが光るのはそれだけじゃない。ボニーとクライドが逃走に使うV型8気筒エンジン搭載のフォード1932年モデルも、精巧に再現されている。

 

当時、発売して間もないニューモデルのこの車種は、一般車両の中では群を抜くスピードを誇っていた。そんなモンスターマシーンを強奪して逃走するボニーとクライドは、まさに生ける「グランド・セフト・オート」である。あまりのスピードに、当時の警察車両は追いつけなかったとか。その優秀っぷりに感激したボニーとクライドは、フォード社に感謝の手紙を送ったと言われている。(ホンマかいな……) 劇中でもラジオから流れるニュースがこのエピソードを語っている。

 

映像面では明るめのトーンが目立った『俺達に明日はない』に対して、『ザ・テキサス・レンジャーズ』は夜中に何度も尿意で目を覚ますおっさんの心境を反映したかのように、暗くて落ち込んだトーンの映像が多い。それから、クロサワ映画なみに雨のシーンが多い。知事の初登場シーンは黒い傘が目立つ雨のシーンだし、中盤のシーンでフランクが電話をかけるシーンでも、マクナブが殺された場面でもやはり雨が降っている。

 

1930年代、大恐慌によってアメリカは疲弊しきっていた。作中でもたびたび登場するキャンプや、トラックに乗って移動する家族の描写などはジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』に詳しい。

 

停滞した社会情勢はヒーローを求めた。銀行からしか奪わない義賊的なボニーとクライドの犯行は、そんな大衆の要請にぴったりと当てはまった。マスコミは彼らをロビン・フッドに例えた。マスコミで取り上げるほど、2人の犯行は過激さを増していく。劇場型犯罪の典型である。

 

雑貨店でたかだか数ドル程度の品物を奪うために、店主を殺しているのにも関わらず、大衆は彼らを応援したのだ。実際に、一般市民の中には彼らを家にかくまって逃走を助けた者も多かった。

 

2人の葬儀に1万人もの人が詰めかけたというエピソードは、大衆にとって彼らがいかに希望の星だったのかを物語っている。希望を託す対象は何でも良かったのだ。ウォーアドミラルと火花をちらしたシービスケットでも、J・エドガー・フーヴァーをして「パブリック・エネミー」と言わしめたジョン・デリンジャーでも。そして、ボニーとクライドでも。

 

おすすめ度 

 

作品情報

原題:The Highwaymen

監督:ジョン・リー・ハンコック 『ウォルト・ディズニーの約束』

脚本:ジョン・フスコ 『マルコ・ポーロ』(ネットフリックス・オリジナル・ドラマ)

撮影監督:ジョン・シュワルツマン 『アルマゲドン』

 

音楽:トーマス・ニューマン 『アメリカン・ビューティー』

編集:ロバート・フレーゼン 『スモーキン・エース』

 

製作会社:ケイシー・シルバー・プロダクション

メディア・ライツ・キャピタル

ユニバーサル・ピクチャーズ

 

配給会社:ネットフリックス

上映時間:132分

制作費:49億円(推定)………*1

 

Imdbスコア:7.1………*2

Rotten Tomatoスコア:50………*3

 

公式サイト:ネットフリックス『ザ・テキサス・レンジャーズ』

 

*1:Source

*2:2019/02/20時点

*3:2019/02/20時点