Hush-Hush: Magazine

映画の批評・感想を綴る大衆紙

ポーラー/狙われた暗殺者:マッツに始まりマッツに終わる映画

Polar Netflix

 

 

Spoiler Warning——ネタバレと溢れるほどのマッツ愛を含みます

ただただ、ひたすらにマッツがカッコいい

 

『ポーラー/狙われた暗殺者』

 マッツが演じるダンカン・ヴィズラは寡黙な男だ。必要以上におとがいを開かず、透徹した視線を周囲に振りまく。相手を殺める際には、一切の容赦なく最も効率的な方法で確実に息の根を止める。効率的な殺害の手段は、おのずと最も凄惨で残虐な殺し方になる。それを眉一つ動かさず平然とやってのけるのが、ダンカン・ヴィズラという殺し屋(ヒットマン)なのだ。

 

メガネをかけて金魚の飼い方に関する本を読むマッツ。嬉々として子供たちにナイフの手ほどきをしてやるマッツ。雪化粧の中で紫煙をふかすマッツ。注ごうとした愛情を拒絶され、失意に沈みながらも娼婦の息子に手を降る憂いを帯びたマッツ。

 

そして、極めつけは左頬に切り傷を刻み、左目に眼帯まで装着して厨ニ心くすぐる機関銃をぶっ放すマッツ。観客は始終、マッツにきゅんきゅんしながら、精神エネルギーを総動員してマッツを応援する。マッツに始まり、マッツに終わる。これがこの映画の全てだ。

孤独で不器用な男のセカンドライフ

『ポーラー/狙われた暗殺者』


引退を控えた殺し屋が、意図せずして再び銃を握ることになる。『ジョン・ウィック』と同じストーリーの型。雇い主である会社から追われるというのも同じ構造。今回は、退職前に殺してしまって保険金を会社のものにしてしまおうという、働き方改革の欠片もない外道っぷり。ブラック企業を通り越してベンタブラック企業の域に達している。

 

冒頭でワンちゃんを愛でるのも、ジョン・ウィックと同じ。だが決定的に違うところは、寝ぼけてワンちゃんを撃ったりしないこと。過去のトラウマがフラッシュバックして反射的に銃で撃つって、そらアカンでマッツ……あのジョン・ウィックですら、一段落つくまで犬はコンチネンタル・ホテルに預けてたじゃないか。

 

ダンカン・ヴィズラは不器用な漢だ。タバコも酒も辞めたと言いながら、一人になると所かまわずタバコをふかし、ウイスキーのボトルを半分空けてから眠りにつく。犬は欲しくないといいながらも、50ドル払って連れて帰る始末。言ってることと、実際にやってることが乖離している。隣人の女性との距離のとり方も実に不器用なことこの上ない。

 

ダンカン・ヴィズラは孤独な男だ。生涯を仕事に捧げてきた。殺し屋としてのキャリアは頂点に達したが、体は緩やかな老いへと向かっている。老眼鏡をかけ、左の耳は聴力が低下している。莫大な金額の退職金を目前にしながら、これといった趣味もなくつつましやかに暮らすことになる。そして彼は、愛情を注ぐ対象を、あてもなく探し続けている。最初は犬、次は魚。シングルマザーの娼婦。そして、同じく孤独な隣人の女性、カミールへと愛情を注ぐ対象は移っていく。

 

何とかしてコミュニケーションをとろうと、さり気なく薪を割ってアピールするマッツが何ともあざとい。学校の授業に話が及んだ際に、ナイフに興味を示したカミールへ贈り物と称して拳銃をプレゼントするマッツ。マッツよ、お前はなんて不器用なんだ……

 

『ポーラー/狙われた暗殺者』

「俺はティチャーだ」なんて自分では決め台詞と思ってるようなスベったセリフを吐いて、あまつさえ拳銃の撃ち方まで指南するマッツ。不器用な男の、不器用なりの心遣いなのだが、想いが先行し過ぎて空回りしている感が否めない。だが、これがいい!この不器用さとマッツの組み合わせがいいのだ!マカロンとブラックコーヒーのように、黄金セットを形成している。

 

銃の撃ち方を指導するも、過去のトラウマがフラッシュバックしてトリガーをひけないカミール。だが、ラストシーンでマッツの過去が明らかになったとき、カミールは銃の教師(ティーチャー)であるマッツに銃口を向ける。仕事という殻を被った殺人行為に生涯を捧げてきたマッツ。そんな彼が唯一、情けをかけたのが少女時代のカミールだった。許しを乞うために、匿名で大金を送り続け、それでもなお消えない罪悪感に苛まれ続けて生きてきた。

 

彼女はマッツと初めて雑貨屋で会った時から、正体に感づいていたのだ。それをひた隠しにしたまま、彼との距離を縮めていった。そして、ラストシーンで彼女の口から紡ぎ出された言葉が、マッツの罪悪感を深く抉る。こんな感情的なシーンなのに、言葉で彼女の心の叫びに応じず、一筋の涙でそれに応えるマッツ。彼はつくづく不器用な男だ。逆探知を警戒して、通話を切るごとにSIMカードを折る殺し屋のマッツは、このシーンではなりをひそめている。そして、フィナーレではカミールとマッツが、互いにかたきを討つことで合意する。殺し続けてきた殺戮者としての人生は終わりを迎え、新たな第二の人生——贖罪というセカンドライフが幕を開けた。

 

マッツがカッコいい。だがしかし……

『ポーラー/狙われた暗殺者』


『ポーラー/狙われた暗殺者』はまぎれもなくマッツの映画だ。マッツだから成立し得るし、マッツだから全裸シーンも許されるのだ。だがしかし、しかしだよ読者諸兄!あのヴィラン共は一体なんなのか。IQが低い単細胞なのか、周りの護衛(ガード)が賢すぎるのかよく分からんが、うざったいことこの上ない。とりわけ、赤いサングラスをかけたマザコン臭かぐわしいあの百貫デブ。太りすぎたカーネル・サンダースのようなフォルムの巨漢。マッツの左目は刺すわ、マッツの体を工具で血だらけにするわで、もうファ○キン・マザーファッカーですわ。「私のマッツに何ちゅうことしてくれとんねん!」

 

『ポーラー/狙われた暗殺者』

 

あまりの低能っぷりに、ラストシーンでは護衛にすら見放される始末。

 「あ、マッツさん、あいつ上階にいてますぜ。んじゃ、あっしらはここで失礼しやす」

 

こんなこと言いながら、そそくさと撤退を始める護衛衆の潔さ!何も答えずに黙々と階段を上るマッツを恐れる様子は、まるで夫婦喧嘩の仲裁に入った子供のよう。

 

グレた高校生なみの小者感ハンパない5人衆も、キャラクターとして薄すぎる。同じようなコミカルな悪役でも、『キングスマン』のサミュエル・L・ジャクソンを見よ。なんと濃いことか。ウイスキーのストレートの濃さと、居酒屋チェーン店のハイボールの薄さ、いやそれ以上に濃淡差があるじゃないか。

 

中でも、ボディコンシャスなコスチュームの金髪お姉さんが気の毒すぎる。たしかに、映画が始まってからの1世紀弱、暴力とセックスはエンターテイメントの基本でしたよ。だがしかし、だからといってマッツとの塗れ場シーンを提供するだけの目的で、キャラクターをつくるのはアカンでしょ、イカンでしょ。イカンを通り越して、はなはだ遺憾だわ。そもそも、こんな役を演じる女優さんが気の毒だと、脚本を書いた人は思わなかったのか。一度演じた役柄は、少なくとも数年はその役者のキャリアを左右するし、ましてや今回のような尻軽——読者諸姉、汚い表現だがお許しを——ブロンド娘を演じれば、そのイメージはしばらくついて回ることになる。

 

それから、トイレ開けっ放しで排泄しに行くスナイパー野郎。ストーリー上での彼の役割って、裸一貫のマッツに衣服を提供しただけじゃないか!

 

マザコン百貫デブといい感じになってるアジアンビューティなお姉さん!えぇ、確かにあんたは、高校生集団の中でも良心的な役割してましたよ。でもね、何で眉毛がないんですか!ずっと気になって画面に釘付けでしたわ。

 

ポーターという同業者の役で、リチャード・ドレイファスが出演していたのだけれど、あまりにも太りすぎてフィリップ・シーモア・ホフマンが生き返ったのかと思った。正直、クレジット見るまで分からんかった。

 

マッツを除くと何も残らんじゃないか!

『ポーラー/狙われた暗殺者』


『ポーラー/狙われた暗殺者』からマッツを取り除くと何が残るか——残念ながら何も残らない。やはり、この映画はマッツで全てが成り立っている作品なのだ。マッツで始まり、マッツで終わる。この記事内でマッツという単語を何回使ったか——数えてみたけれど、いまのところ43回。

 

そもそも、カット数が多すぎる。 新房昭之かっ!とツッコミを入れたくなるほどのカット数の多さ。アクションシーンでは編集によって、細かくショットとショットをつなぎ合わせて巧みにテンポを作り出すこともある。だがしかし、しかしだよ読者諸兄、あまりにも多すぎるじゃないか。目がチカチカするほどのカット数の多さ。『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督もビックリするほどに多いわ。

 

同じコミック原作で、コメディ色の強い『キングスマン』だって、ドラマのシークエンスでは速度を落としたカット数になってたよね、見てたよね、『ポーラー/狙われた暗殺者』撮った人たち!ミュージックビデオ出身だか、何だか知らないけど、「とりあえずマッツ様カッコいいし、映りがいいからカッコいいクールな映像撮っとけばいいんでしょ」みたいな安直な考えがダダ漏れじゃないの!

 

『ポーラー/狙われた暗殺者』

マッツの小屋のロケーション、田舎町の暗く停滞した重苦しい空気感、ハイウェイを疾走するジープとか、せっかくの良い素材が台無しじゃないの!大間で採れたマグロをくら寿司で食べたら美味しいと思う? 「でも……」とか、言いたげなそこのあなた、デモもストライキもヘッタクレもございません。そうですよ、あなたですよ!ジョナス・アカーランド監督!!優れた素材でも、それを絶妙な案配で調理して、整えられた空間で食べるから美味しいのであって、とりあえずぶった斬って煮詰めりゃ美味しくなるわけではございません。

 

演出面とストーリー面については憤懣やるかたないのだけれど、今回はマッツ様がカッコいいから全て水に流そう。さすがは北欧の至宝、マッツ・ミケルセン。歳を重ねて、さらに熟成された色気が漂っている。宣伝ポスターを見た時は「ハーロックかよ」と一笑していた私。ごめんなさい、松本零士先生、ハーロックよりもマッツの方がカッコ良かったです。『ハンニバル』や『カジノ・ロワイヤル』の時の妖艶なマッツではない、泥臭くタフネスなマッツを堪能あれ。

 

PS:全部で78回も「マッツ」という単語を使ってた。SEO的に絶対よくないよね、これ。

作品情報

作品情報

原題:Polar

監督:ジョナス・アカーランド(『ホースメン』)

原作:ビクター・サントス

脚本:ジェイソン・ロースウェル

 

音楽:ジョエル・トーマス・ジマーマン(『ゴースト・イン・ザ・シェル』)

製作会社:コンスタンティン・フィルム / ダークホース・エンターテイメント

配給会社:ネットフリックス

 

上映時間:118分

Imdbスコア:6.3………*1

Rotten Tomatoスコア:20………*2

 

公式サイト:ポーラー/狙われた暗殺者

おすすめ度 
マッツがかっこいい度 

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