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ラブ、デス&ロボット: ネットフリックス史上、最高にクレイジーでクールな作品

ネットフリックス『ラブ、デス&ロボット』

 

 

Spoiler Warning——ネタバレを含みます

 

短編集という特殊な形式には独特のリズムがある。長編ものとは違って短い尺の中でストーリーを展開し、ある程度のオチをつける必要に迫られる。よって、状況説明は必要最低限に留められ、最終的に仕上がった作品は一切の余剰を削ぎ落としたややストイックな趣が漂う。このシンプルな美しさが短編集の魅力だ。

 

無駄がないからストーリーの本核に自ずと意識が向かうし、描かれる出来事やテーマも1本に絞られるからストーリーがブレない。そして、つかの間の夢をきっぱりと終わらせるエンディングに作者のセンスが凝縮される。本作『ラブ、デス&ロボット』は、そんなシンプルな美しさを極限まで追い求めた1級のショートフィルムだ————ネットフリックス史上、最高傑作だとすら言ってもいいくらいに。

 

私は短編集が大好きだ。大友克洋さんの『ショートピース』を読んで短編集という形式の持つ独特のリズムに魅了されたのが始まりだった。(漫画で詩を詠めるアーティストはそうそう転がってるもんじゃない。その一人が大友克洋さんなのだ。)小説だとヘミングウェイやレイモンド・カーヴァーの短編集が好きだし、映画だとジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』やヴィットリオ・デ・シーカ監督の『昨日・今日・明日』がお気に入り。

 

一切の贅肉を削ぎ落とした形式ゆえに、短編集には作者のセンスが如実に顕れる。作品を鑑賞する観客にとっては、アーティストのクセや感覚を味見できるサンプルのようなものだと言える。まるで、デパ地下の食料品売場みたいに。この手軽さと、様々なテイストを1つの作品で味わえるという贅沢さが短編集の魅力だ。その点、『ラブ、デス&ロボット』はデパ地下の食料品売場というよりも、むしろバリエーション豊かな港町の市場のよう。すべての作品が1級品で、ないがしろにできる作品は1つたりともない。それでいて、全体を俯瞰したときには1つの短編集として通底するテーマ性も持ち合わせている。

 

かつて、ネットフリックス・オリジナル作品でこれほどまでにエキサイティングでクレイジーな作品があっただろうか。視聴者のクリエイティビティを刺激し、カオティックな美しさが全身を打ち震わせる怒涛の18話————それが『ラブ、デス&ロボット』だ。

 

ソニーの切り札:Sonnie's Edge

 

ビデオゲームをプレイするたびに、とある考えが頭をよぎる————トレイラームービーやストーリームービーで使われているCG表現で映画を撮れないものだろうか。近年のビデオゲームのトレイラームービーは、劇場上映にも堪えうる緻密さとリアリティーを備えている。実際に戦争モノのゲームの予告動画を映画館のスクリーンで見たことがあるのだけれど、ストーリーの内容次第では2時間の鑑賞に耐えられるなと感服した記憶がある。

 

そんな私の妄想というか、願望を叶えてくれたのが『ラブ、デス&ロボット』だ。1話目の『ソニーの切り札』は、最新のビデオゲームのトレイラームービーのような、いやそれ以上に映画的なリアリティーにあふれるCGアニメーション作品だ。

 

たとえば、主人公ソニーの全身に刻印された龍のタトゥーがネオンの明かりに晒されておぼろげに浮かび上がる映像。アリーナを包み込むスチームと煌々とした照明。そして、物語のメインとなるプレデター同士の壮絶な戦闘シーン。たった17分の短編ながら、どこをとっても映画的で美しい映像に心を打たれた。

 

『アリータ: バトル・エンジェル』を観た時にも感じたことだけれど、CGの映像表現もこの域にまで達すると、もはやアニメーションと言うべきなのか映画として扱うべきなのか、その境界線が限りなく曖昧になりつつある。CGという虚構であるはずなのに、これだけ心を震わせることができるのならば、映画と呼んでも差し支えないのではないだろうか。

 

だが、『ソニーの切り札』の素晴らしさは映像表現だけにとどまらない。朝ドラの放送時間とほぼ同じである17分間の中で「ショック」と「スリル」が巧みに展開されているのだ。17分間————朝ドラの放送時間。山手線の浜松町駅から渋谷駅までの所要時間。私が近所のスーパーに買い物に出かけて家に戻ってくるまでの時間。たったこれだけの短い時間の中で、緊張感を巧みにコントロールしてクライマックスまで持っていき、そのうえで「どんでん返し」まで盛り込むなんて誰にでもできる芸当じゃない。

 

中盤の戦闘シーンで、窮地に追い込まれたソニーのプレデターは尻尾を4つに分けて反撃を開始する。形勢が逆転したかに見えたその時、敵のプレデターは骨に仕込ませたブレードでソニーの下腹をぐさりと突き刺す。辺りには赤黒い飛沫が飛び散り、がくんと頭を垂れるソニー。アリーナの観客席から驚きの声が漏れる。生気が潰えたと誰もが思ったその刹那、ソニーはありったけの力で残された最後の刃——エルビス・プレスリーのように鋭く尖った頭頂部——を相手に突き刺す。

 

この緊張と緩和のバランスが、一切の無駄なく短時間で的確に描写されている。その鮮やかな手腕には思わず唸らされた。だが、『ソニーの切り札』はこのスリリングな戦闘シーンだけでは終わらない————これだけでも十分に魂が揺さぶられるのだけれど。

 

終盤にさしかかると、ヴィランの女が再び登場してソニーに色じかけをかけてくる。ストーリーの序盤でタバコをふかす描写をさりなげなく見せることで、この女の存在をそれとなく示していたが、その伏線がクライマックスで回収されるのだ。このストーリーテリングの鮮やかなことったら、もはや芸術の域

 

ボーイッシュなソニーと薄暗い室内に輝くブルネットが美しいファム・ファタールの艶やかなシーン。揺れる乳房も、吐息が漏れる唇も、熱気を帯びた透き通った白い肌も、現実の映像と遜色ないくらいにリアルなCG映像があだっぽいムードを醸成していく。だが、そんなピンク色のムードは何の前触れもなしに破壊される。まるでヒッチコックの『サイコ』みたいに唐突に。

 

その直前まで頬を赤らめていたブルネットの女は、手に忍ばせたウルヴァリンのような刃物でソニーの頭を串刺しにするのだ。今度こそ死んだのかと、観客の感情はピークに高まる。そして、タイトルである『ソニーの切り札』の真意が明かされる。なんて無駄のない、洗練されたストーリーテリングだろう。

 

たった17分の中で、これだけ起伏に富んだ物語を展開し、それを圧倒的な視覚表現でパッケージしてみせる『ソニーの切り札』は、興味本位で再生ボタンを押した観客たちを『ラブ、デス&ロボット』の世界観に容赦なく引きずり込む。

 

ロボット・トリオ:Three Robots

 

前のエピソードとはうって変わってシュールな笑いを誘うコメディタッチの作品。平均的な人型ロボット、頭部がディスプレイの小型ロボット、淡々とブラックジョークを連発するモノリス型のロボット————このアンバランスな3人組が、人類が消えた地球を散策していく。

 

人間にとっては当たり前の光景が、ロボットにとっては未知の探求に変わる。まるで見知らぬ外国に訪れた観光客のように、写真を撮ったり、見慣れぬ光景を堪能する3人。バスケットボールの扱い方に頭を悩ませ、ダイナーの存在意義に疑問を抱く。どうして人間は口からエネルギー源を取り入れるんだ?  胃の中に直接入れればいいじゃないか————このロボットらしい感覚がシュールな笑いを誘う。

 

そして極めつけは「猫」だ。膝に飛び乗ってきた猫に怯える3人の姿は、じつにバカバカしくて微笑ましくすらある。なんとかあやそうと試みて背中を撫でると喉を鳴らし始めた猫に対する怯えっぷりには腹を抱えて笑った。人型ロボットが「ティーバック」の意味を調べる場面では、肩にちょこんと乗った猫も「ぷしゃーっ!」と嫌悪感を示す。ヤバい、猫かわいい……

 

ある意味衝撃的なラストシーンでは、ついに猫が喋り始める始末。さっきまでの愛らしい姿はどこへやら、低めの声でとつとつと語り始める猫。このギャップがまたシュールで面白すぎる。あれだけ怯えていた猫に囲まれて茫然自失とする3人組。猫で始まり、猫で終わる————じつに愛くるしいコメディじゃないか。あとね、猫かわいい。猫好きの私はこれだけで大満足だった。

 

目撃者:The Witness

 

『グランド・セフト・オート: チャイナタウン』のようなカートゥーン調のCG映像と、リアルなCG映像が融合した不思議な世界観をもった第3話。文字で示される効果音や、漫画的な色使いのペイント。まるでアメコミのようだと思いきや、建物のパースや床のタイルは現実感があってリアルなのだ。しかも、街中には人の気配が一切ない。

 

まるでティム・バートンの描く住宅街のように、奇妙なほど生活感を欠いた街中はまるで夢で見た光景のよう。このリアルとアンリアルの溶け合った感じが、不思議な世界を築き上げる。さらに、不気味な音の中で飛び交う動物の鳴き声が本作の世界観に奥行きを与えている。

 

画面全体を覆うザラザラとしたノイズ、リアルなライティング、躍動感のあるカメラワーク。これらの実写的な映像表現が「追う者と追われる者」をスリリングに追いかける。中でもずば抜けて実写的なのがカメラワークだ。主人公が建物内の階段を駆け上がる場面では、焦点がブレるほどカメラが揺れ動く。

 

「主人公の女性はどうなるのか? 殺されるのか? 助かるのか? 」「なぜ男は女を追うのか? 」————このサスペンスとミステリーが、全力で闘争する主人公のごとく疾走感あふれる展開で描かれる。ストーリーの最初から最後まで、少しも減速することなく一気に駆け抜けていく。そして、ラストシーンで再びオープニングと同じ状況に戻ってくるという循環構造。まるで夢のような不思議な映像体験だ。

 

ストリップ劇場でなまめかしく踊る主人公の肌の質感は、まるで本物のように真に迫っている。CG表現もこの域にまで達すると「不気味の谷」とかそういう次元を遥かに超えている。

 

スーツ:Suits

 

農家のオヤジたちが『パトレイバー』に出てきそうな工業ロボットを駆ってエイリアンと戦う。この状況設定だけでも十分に胸熱じゃないか! リドリー・スコット監督の『エイリアン』のようなシルエットの敵が、次から次へと湧いてくる様子はまるでゲームのよう。

 

コマを落としたような2Dアニメ調の動きも、ロボットものという世界観にマッチしている。動きは2Dっぽいんだけれど、カメラワークは3Dそのもの。この組み合わせが違和感なく機能している。

 

爆発やビーム、マズルフラッシュなどのエフェクトも、まるで手描きアニメーションのような2D感にあふれている。男勝りなオバちゃん: メルが空になったガトリング砲で敵のエイリアンを踏み潰す描写とか、さりげないディテールの演出がアニメ愛を感じさせる。

 

全編を通して緊張感がストーリーを牽引し続け、途中でダレる暇もなく最後までアドレナリンがほとばしる。アクションシーンは次第に盛り上がりを見せていき、クライマックスでは『ガンダム無双』のようなエキサイティングな展開を迎える。

 

作り手のロボット愛がひしひしと伝わってくる1品だ。

 

魂をむさぼる魔物:Sucker of Souls

 

すべて手描きの2Dアニメーション作品————背景動画なんて久方ぶりに見たような気がする。日本のアニメーションと違って、アメリカのアニメーションはキャラクターを動かすために描く絵の枚数が多い。いわゆる「ヌルヌル動く」というやつだ。

 

ドラキュラが学生を木っ端微塵にしてしまう場面では十文字に血しぶきが飛び散り、布切れでも切ったように肌が剥がれ、次いで骨があらわになり、最後には脳みそが四散する。そして、脳みそが切り刻まれるとメインキャラクターである2人の男が映し出されるという、アメリカン・アニメーションらしい演出が光る。

 

そして、面妖なドラキュラの弱点が「猫」だと判明する————この奇妙なギャップが最高に面白い。素知らぬ顔で男の腕に抱えられた猫と、それを見て塩をかけたようにへなりこむドラキュラ。いやいや、どんだけ猫怖いねん(笑)

 

ほかにも、ドラキュラの睾丸をショットガンで吹き飛ばしたり、危急の事態なのに切り札の猫は交尾にふけっていたりと、「大人のエンターテイメント」らしいブラック・ジョークが楽しめる。

 

ヨーグルトの世界征服:When the Yogurt Took Over

 

もしヨーグルトが人類を支配したとしたら、どうなるだろうか?————いろいろとツッコミどころ満載のこのシュールな状況を、理路整然とナレーションが語っていく。たった5分間の間に、ヨーグルトがいかにいして人類を支配していくか、その経緯が丁寧に描写される。

 

あり得ないこの状況設定を、いかにも真に迫った調子で淡々とナレーションが語る。この温度差というか、ギャップがコーエン兄弟の映画のようなシュールな笑いを誘うのだ。

 

最初こそコーンフレークで文字つくってたけど、途中から完全に喋ってますやん(笑) しかも、最終的には宇宙にまで進出するという躍進っぷり。明治ブルガリアヨーグルトもびっくりだわ。

 

人間も街もデフォルメされていて、より風刺的な作品に仕上がっている。まるでオーウェルの『動物農場』のよう。

 

わし座領域のかなた:Beyond the Aquila Rift

 

『ラブ、デス&ロボット』の中でもひときわ輝きを放つのが、本作『わし座領域のかなた』だ。本作が始まってから最初の1分間、キャラクターたちがCGなのか本物の俳優なのか区別がつかなかった————多分、CGだよね……? というふうに確信が持てず疑問符が離れななかったのだ。

 

『わし座領域のかなた』俳優

© Imdb 2019 © Netflix 2019

 

Imdbとか、海外のWebサイトとか色々なソースをあたってみたけれど、いかんせん『ラブ、デス&ロボット』に関するメイキング情報が少なすぎる。どうやって製作されたのかは想像するしかないのだけれど、Imdbを見た限りだと主人公トムの造形と彼を演じたヘンリー・ダスウェイトの容姿はほぼ同じだ。ともすれば、ヘンリー・ダスウェイトの演技をCGデータとして読み込むだけでなく、彼の容姿もそっくりそのままCGモデリングで再現したのだろうか。もしそうだとすれば、とてつもなく労力のかかる作業をやっていることになるのだけれど、おそらくその「まさか」なんだろうな。

 

CGのキャラクターでも、ここまで感情を豊かに表現できるのかと感動すら覚えた。CGで描かれる濃厚なベッドシーンは、肌の温もりすら感じるほどに生々しい。そして、クライマックスでグレダがこぼす涙の美しさ。本作の舞台となる「わし座領域」は神々しさすら感じるほどに美しい。CGという映像表現が宇宙空間と絶妙にマッチして、物語の世界観を一片のほころびもなく築き上げる。

 

『アイアンマン』でも登場した「空間に浮かび上がる直感的な操作が可能なディスプレイ」、コールドスリープ状態に入るための冬眠カプセル————SFモノの醍醐味の1つである、こういったガジェットの数々も作品にリアリティーを与えている。

 

そして、クライマックスで明かされる「真実」が、観客にアルマゲドン並みの衝撃を与える。惑星間航行をするためにコールドスリープ状態に入った主人公。主観的には数ヶ月の冬眠でも、タイムパラドックスによって実際には700年の歳月が経過していた。

 

涙ながらにグレダが見せる現実の姿————現実の彼女は名状しがたいほどにグロテスクな容姿の異星人だったのだ。おそらく、彼女によって支配され荒廃しきった「わし座領域」の全貌が映し出されたとき、観客はすべてを悟るのだ。これは彼女が見せている幻だったのだと。儚くてグロテスクで、どうしようもなく美しい傑作短編。

 

グッド・ハンティング:Good Hunting

 

前エピソードの現実的なCG描写とはうって変わって、2Dの手描きアニメーション作品。『スチームボーイ』のような歯車と蒸気が支配する街は、どこかノスタルジックな趣がある。主人公の少年時代、冒頭のアクションシーンは2Dの手描きアクションに3D的な躍動感あるカメラワークが組み合わさリ、爽快感のあるアクションに仕上がっている。

 

男をたぶらかして生き血を吸うことでしか生を繋ぎ止められない女————まるでホステスさんやキャバクラのお姉さんみたいだ。かつては狩られる身だった女は、全身をサイボーグ化して狩る者になった。機械じかけの九尾を広げて宵闇を駆け抜ける姿は、冒頭のアクションシーンとオーバーラップして見える。彼女の全身を覆うメカニカルな装甲のデザインは、東洋的な緻密さと幾何学的な美しさを湛えていてまるで芸術品のよう。

 

ゴミ捨て場:The Dump

 

ホームレス然としたオヤジの物語。オヤジはなぜゴミ捨て場を好んで暮らしているのか? 調査員の男が顔をしかめるようなゴミ山の中で、オヤジは快適そうに暮らしている。絶対、何年も風呂入ってないよな、このオヤジ……

 

この特殊な状況設定も面白いけれど、私の興味をひいたのはカメラワークだ。CG作品ならではというか、実写映画ではあまり見かけないカメラの使い方が面白いと感じた。たとえば冒頭のシーンでは、オヤジがアイスクーラーからボトルを取り出して調査員の男に手渡しする。この僅かな間に時間が遡って、過去の回想シーンが始まる。

 

また、名作ゲーム『塊魂』のようにゴミを吸収して成長するオットーに調査員が食われる場面では、無残にも食われていく調査員の視点で見た映像が映し出される。冷蔵庫の扉を閉めるときに、冷蔵庫の中にカメラを置いたりするのは実写映画でもよく見かけるけれど、生きものに食われていく人物の1人称視点の映像はなかなか珍しいと思う。

 

ゴミの中で産まれ、ゴミを吸収して生きながらえるオットーは『千と千尋の神隠し』に登場する「川の神様」を彷彿とさせた。

 

シェイプ・シフター:Shape-Shifters

 

ゲームトレーラー調のリアルな質感のCG作品。超能力者が登場する作品は数多くあるけれど、アフガニスタンに赴任中の軍人というのは珍しい。目の色が変色したり、驚異的な回復能力を示したりする超人的な兄弟が、マーベルヒーローよろしく大活躍する話かと思っていたら……全然違うじゃないか!

 

突如、巨大化して動物へと変貌するアフガニスタンのお爺ちゃん————主人公の軍人も負けじと狼へ変身する。そして、アニマルバトルの火蓋が切って落とされる。盲人のお爺ちゃんが荒々しい野生の動物に変身した時は、おもわず「いやいや、なんでやねん(笑)」とツッコんだけれど、いざ闘いが始まると情け容赦のない荒々しい闘いっぷりにアドレナリンがほとばしった。主人公がお爺ちゃんを仕留めるクライマックスでは、頭を丸ごと噛み砕く狼の恐ろしい形相がややアオリ気味のカメラで映される。

 

『アニマルカイザー』なんて比じゃないくらい、野性的な荒々しさを感じさせるアニマルバトル。

 

救いの手:Helping Hand

 

宇宙空間ひとりぼっちでサバイバル————『ゼロ・グラビティ』と同じ状況設定ながら、本作の方がよりハード・コア・テイストだ。船外活動中に浮遊物が酸素パックに接触して、突然生死を分かつ危機に陥った主人公。推進力を得るためのジェットパックは故障し姿勢制御はおろか宇宙空間を漂うしかないという、まさに蛇の生殺し状態。

 

酸素残量が尽きかけた時、主人公は賭けに出る。方向を変えて、船体に帰るための推進力を得るために宇宙服を投げようと試みる。だが、宇宙空間で生肌をさらせば数分と経たないうちに体は凍りついてしまう(宇宙の気温はマイナス200度を超える) そして、最終的には紫色に変色して凍死した自らの腕を引きちぎって、それすらも投擲するのだ。絶叫しながら自らの腕を引きちぎる場面は、痛ましいことこの上ない。

 

冒頭の場面で主人公が地上の管制員と通信する際に伝えるコード「Lv426」は、リドリー・スコット監督の『エイリアン』へのオマージュだろう。(『エイリアン』の舞台となる惑星のコードがLv426 )

 

『ゼロ・グラビティ』や『インターステラー』、『ファース・マン』などの宇宙モノの映画では定番となった、ヘルメット内部にカメラを設置して被写体を斜めから接写するショットは本作でも確認できる。これだけ接写しても実写映像と遜色なく見えるCGキャラクター。もはやCGで再現できないものなど存在しないのではないか。

 

フィッシュ・ナイト:Fish Night

 

カートゥーン風のCGが魅力的な作品。砂漠と海————まったく対照的な両者が同居しているという不思議な感覚が漂っている。水を描かずに海を感じさせる映像表現が素晴らしい。色鮮やかな魚の亡霊たちは、夜空に輝く星のようだ。

 

ラッキー・サーティーン:Lucky 13

 

第13話にあたる本エピソード。ストーリーの主役「ラッキーサーティーン」の製造番号は13-02313————13に挟まれていて、全ての数字の合計も13になる。なんとも不吉な雰囲気を持つこの機体は、過去に2度大破したにも関わらずいまだに現役で前線へ繰り出している。まるで名誉挽回しようとするかのように、2度の大破を経験したラッキーサーティーンはその後何度も出撃して無事に生還を果たす。不吉な数字がラッキナンバーに生まれ変わった。そして、クライマックスのシーンでは意志を持っているかのように、敵兵をできるだけ引きつけてから自爆するのだ。

 

時おり挿入される船内カメラの映像は、『2001年宇宙の旅』のHALを彷彿とさせる。声こそ出さないが意志を持っているかのような、そんな血の通った印象を与える。だから、クライマックスで自爆したときに儚さを感じて感動するのだ。

 

『スター・ウオーズ』のように縦横無尽に空中を飛び回るドッグファイト・シーンは迫力満点だ。ストーリー中盤で前線から脱出する際に、自由落下してから上昇飛行するシーンがある。この主人公の機転が功を奏して、ほうほうの体で前線から脱することができるのだけれど、乗組員にかかるG負担を想像すると何だか恐ろしくなった……

 

ジーマ・ブルー:Zima Blue

 

ネットフリックス ジーマ・ブルー


『ラブ、デス&ロボット』の中で、ストーリー面では最も好きなエピソード。サイボーグ化した芸術家ジーマの半生を追うストーリー。芸術家としてのジーマの遍歴がじつにリアルで面白い。

 

最初は人間に興味を示していたが、次第に関心は宇宙へと移り、ついには壁画を描き始める。この頃からジーマは作中に一面が青い四角形を描き始める。後にジーマ・ブルーと呼ばれることになるこの作風が、彼の原点であり創作の源だったのだ。

 

最初は正方形だったジーマ・ブルーは円形へと形を変え、やがては空にそびえ立つ巨大なタイルへと変貌する。次第にスケール感を増していくジーマの作品は、ついに宇宙をキャンバスにしてしまう。この描写がじつにリアルだ。おそらく時代が進んで宇宙への進出が当たり前になると、宇宙空間をつかって作品をつくる芸術家が出てきてもおかしくない。

 

そして、サイボーグ化して宇宙を探索したジーマはついにすべてを悟る。すべてが明晰に見通せた彼は、自らの原点ジーマ・ブルーへ帰ることを決意したのだ。ここで稀代の芸術家ジーマの正体が明らかになる————プールのタイルを磨くだけの清掃ロボット。これが彼の本来の姿だったのだ。

 

プールへと飛び込んで自壊していくジーマ。肢体が分解され水中に漂い、その中から小さなロボットが出現する。本来の姿に戻ったジーマは、黙々とタイルを磨き始める————なんて哀愁的なストーリーだろうか。たった10分の短い時間で描かれる1人の芸術家の壮絶な人生は、はかなくも美しい。

 

ブラインド・スポット:Blind Spot

 

ロボット版の『大列車強盗』————実際にはトラックだけど……
アニメ調のフラットなCGで繰り広げられるド派手なアクション作品だ。敵の巨大なロボットのデザインが無骨ながらもシンプルで美しい。

 

序盤と終盤で登場するあの可愛らしい生きもの、あいつは一体何なんだ……
殺人的にかわいいじゃないか!  あの愛くるしい生きものを避けようとしてヘマをしでかす大男、お前は間違いなくいいヤツだ。

 

氷河時代:Ice Age

 

『ラブ、デス&ロボット』の中で唯一の実写パート。冷蔵庫の中で繰り広げられる文明の歴史を描く。『シムシティー』のように、とてつもないスピードで文明が進んでいくシミュレーションは、まるで神様になったような感覚を与える。

 

歴史改変:Alternate Histories

 

歴史シミュレーションアプリのデモンストレーションという設定で展開されるブラックコメディ。今回はデモ版なので「もし、ヒトラーが死んでいたら」バージョンのみに限られている。『ラブ、デス&ロボット』を象徴するかのような破壊力ばつぐんのブラックジョーク。

 

  • ゼリーに潰されてヒトラー死亡 → いやいや、どんな状況やねん(笑)
  • 娼婦とヤりすぎて死亡 → おまえ、ヒトラー馬鹿にし過ぎだかんな
  • 未来から来た自分が現在の自分を救い出す → タイムパラドックス起こしてなぜか爆発。もはやナメとる……
  • 挙句の果てには、もはや人類すらいなくなってネズミとイカの文明社会 → イカでも月面行けるんだな

 

最後で言及される「もし、リンカーンが先に撃っていたら?」のバージョンも気になってしかたない————いや、そもそもあんた大統領やろうが。 先に撃ったらアカン。

 

秘密戦争:The Secret War

 

オオトリを飾るのにふさわしい骨太なエピソード。シネマ調の硬派な映像が、寒々とした雪景色とあいまって観客の身を引き締める。ストーリーは山奥に派遣された軍人たちが魔物を退治するというシンプルなもの。だが、この簡潔な物語が重厚な映像で紡がれると、たちまち映画になる。

 

カメラワーク、構図などすべての映像的な要素がすべて「映画」なのだ。カメラに飛び散る鮮血も、横並びに立った2人をピント送りする場面も、すべてがCGという枠を飛び越えて映画の域に達している。

 

閃光弾の放つ紅い光に包まれた森の中で魔物と戦うシーンは、煙もライティングも驚くほどにリアルだ。不気味で空恐ろしい感じのする紅い空間。閃光弾の輝きを光源にするデザイン的なセンスも素晴らしい。

 

そして、クライマックスはたった数人で数千もの大軍に立ち向かうという胸熱展開。必死に戦って散っていく男たちの姿が哀愁的に描かれる。中盤でバラライカを演奏していた兵士が、クライマックスの場面では隊長の息子だと明らかになる。最後のシーンで、爆撃機が魔物を殲滅するとき再びバラライカの音が寂しげに鳴り響く。

 

おすすめ度 
作品情報

原題:Love, Death & Robots

監督:ヴィクター・マルドナド

アルフレッド・トーレス 『トロールハンターズ(ネットフリックス作品)』

 

脚本:フィリップ・ジェラット 『The Bleeding House』

ティム・ミラー 『デッド・プール』

ジョン・スコルジー 【アメリカのSF小説家。代表作『老人と宇宙』はネットフリックスが映画化を企画している】

 

アニメーション製作会社:Blur Studio 【ティム・ミラーが立ち上げたCGプロダクション。『バットマン・アーカムシリーズ』や『ファークライシリーズ』を手がける】

 

Blow Studio 【スペインのCGプロダクション】

Pinkman.TV

Studio La Cachette 【フランスのアニメーション製作会社】

 

Unit Image【フランスのCGプロダクション】

Red Dog Culture House 【韓国のアニメーション製作会社】

Able & Baker 【スペインの映像プロダクション】

 

Platige Image Studio 【ポーランドのCGプロダクション】

Axis Studios【イギリスのCGプロダクション】

Sony Pictures Imageworks 【ソニーの子会社であるCGプロダクション。『スパイダーマン: スパイダーバース』を製作】

 

Passion Animation Studios 【イギリスの映像プロダクション】

Elena Volk 【元ディズニーの人。詳細不明。『モアナと伝説の海』でアニメーションを製作】

Digic Pictures 【ハンガリーのCGプロダクション『アサシンクリード』『ファイナルファンタジー』などを製作】

Sun Creature Studio 【デンマークのアニメーション製作会社】

 

プロデューサー:デヴィット・フィンチャー 『セブン』『ファイト・クラブ』

ティム・ミラー

ジョシュア・ドーネン

ジェニファー・ミラー

ヴィクトリア・L・ハワード

 

配給会社:ネットフリックス

上映時間:6分~17分

 

Imdbスコア:9.0………*1

Rotten Tomatoスコア:75………*2

公式サイト:ネットフリックス『ラブ、デス&ロボット』

*1:2019/03/26時点

*2:2019/03/26時点