Hush-Hush: Magazine

映画と本とヘヴィメタルが主な話題の大衆紙

アウトサイダーこそヘヴィメタルを聴くべきだ

Heavy Metal

 

 

ヘヴィメタルというと、何かと悪いイメージが多い。パチンコ屋並みのけたたましさ。長髪でヒゲ面の外人が、意味不明の歌詞を叫ぶ。頻繁に出てくるスカルや死神のシンボル。アルバムのアートワークが不気味。両腕にお絵描きの入った人達の音楽。ライブに集うファンの人もパンチの効いたヒッピー崩れみたいな人が多い……etc

 

メタルを聴いたことのない人にとっては、最もラディカルで美しいヘヴィメタルという音楽に対する印象はこんなものだと思う。だが、そんなバイアスを持った人にこそメタルの良さを知って欲しい。とりわけ、心に何らかの瑕疵かしを抱えたアウトサイダーには。

 

間違いなく人生に鋼鉄の光を浴びせてくれる

 

ヘヴィメタルが私を救ってくれた

社会人になって1年が過ぎたある日、私は鬱になった。専門学校を中退して、今の職を得た。だが、その職は私の目指す夢とは全く関係のない仕事だった。私には夢がある。掲げた目標達成のため、限られた自分の時間を個人プロジェクトに割いた。しかし、心身ともに疲弊しきった状態で帰宅してから作業に入る間もなく、意識を失ったように眠りに落ちる。そして、出社時間ギリギリに目が覚めてから襲う後悔と自分への怒り、不甲斐なさ。

 

青臭いガキの頃は判然としなかった、夢と現実の距離を雲が晴れたようにはっきりと理解した。1年が経った頃、当初の計画と実際の進捗の差を目の当たりにして、それは確信に変わった。このままでは、夢の実現に間に合わない。この危機感が私を追い詰めていった。そして、ある朝アラーム音で目が覚めた時、私は何もする気力が起きなかった。出社はおろか、起き上がる気力さえ起きなかったのだ。病院には行かなかったが、今思い返せば鬱だったのだと思う。あんな精神状態は、生まれて初めての体験だった。

 

出社を拒否して丸48時間、何もせずに寝て過ごした。どうやって落ちたのかも分からない谷底で、這い上がる術も見つからず、ただ救助を待っている。そんな感覚だった。

 

そんな人生のどん底の時期にヘヴィメタルと出会った。それは深い谷底へ重武装した戦闘ヘリが救助に駆けつけた瞬間だった。夢と現実の齟齬からくる自己嫌悪、社会という巨大なシステムに突然押し付けられた規則の数々、人間関係、理不尽な状況に唯々諾々(いいだくだく)と従う情け無さ。心にわだかまっていた感情を、爆走するドラムとギターリフが切り刻み、限界まで叫ぶシャウトとデスボイスが踏み潰した。

 

心のモヤモヤを音楽に乗せて吐き出すことの心地良さを初めて知った。風にさらわれた落ち葉のように、心がふわっと軽くなった。ヘヴィメタルは、私に正しい怒りを教えてくれた。怒れ、怒れ、もっと怒れ。そしてその怒りを原動力に変えろと。

(愛こそ最大の動機だというのは、フィクションの世界でしか通用しない。現実世界では、怒りこそ最大の原動力だ。)

 

私の人生は一変した。

 

アウトサイダーによるアウトサイダーのための音楽

彼らは怒っている。世に中の不条理に。ルールに従えと強要するシステムに。トレンドに右往左往する群衆に。高級スーツに身を包み、澄ました顔でTVに映る成功者に。内側から激しく沸き起こる、抑え難い慟哭をメロディーに乗せて轟かせる。心の中にしこる不純物を炸裂する爆音で一掃する。

 

彼らはただ暴走しているのではない。美を感じる心を、それを見定める審美眼を持っているただ、それを表現する手段が、メタルという轟音しかなかったのだ。どうしようもなく不器用なのかもしれない。心の奥底では好きだと分かっているのに、それを素直に言動で伝えられない、そんな感覚に近い。そして、その轟音を愛してやまない私もまた、世間一般の人が当たり前にできることを当たり前にできない、不器用な人間(アウトサイダー)だ。

 

ヘビーメタル

ヘヴィメタルという音楽に共通するのは、独特の美的センスだ。繊細な美しさを表現したメロデスやメロコア。アドレナリンほとばしる圧倒的な疾走感で美を追求するスラッシュ・メタル。メタルの伝統へ最大限のリスペクトを捧げつつ、モダンな美しさを添加したメタルコア。デヴィット・フィンチャーの映画のような、どす黒いカオティックな美しさを讃えたブラックメタル。メタルのサブジャンルは細分化されて多岐に渡るが、その全てを根底で繋げているのは圧倒的な美しさに他ならない。

 

ヘヴィメタルを聴いたことの無い初心者マークの人は、けたたましい音楽だとそしるかもしれない。喧しいだけで、美とは無縁の音楽だと。

 

否——断じて、否。

 

そうして、ヘヴィメタルを蔑視するのは単なる食わず嫌いだ。耳が痛いなら音量を下げて聴けばいい。禍々しいCDジャケットが不気味だと思うなら、視覚をシャットアウトすればいい。一度でいいからヘヴィメタルを聴いてみてほしい。それでもなお、性に合わないとあなたが判断したのなら、あなたはヘヴィメタルを必要としていない人間だ。だが、今の世の中には気付いていないだけで、メタルを必要としている人間は大勢いるのではないだろうか。現在、メタルヘッドを自称しているのは氷山の一角に過ぎず、本来のニーズはもっと巨大なのではないか——個人的な願望かもしれない。だが、異世界転生ものが流行し、ヒーロー映画がハリウッドを蹂躙し、重箱の隅をつつくような指摘の数々がオンライン空間を飛び交っている昨今。想像よりはるかに多いのではないだろうか。心の中に凝り固まったしこりを持つアウトサイダーの数は

 

多くの人がヘヴィメタルよりも星野源を聴きたがるのは、彼らの大半はメタルなど無くても生きていけるからだ。だが、一部の人間とってメタルは無くてはならない存在なのだ。アウトサイダーという一部の人間にとっては。

 

ヘヴィメタルは全てを破壊する

ヘヴィメタルの爆音は有無を言わさず、全てを破壊する——臨界点に達したイライラを。時間が癒やしてくれない心の傷を。理想と現実の葛藤を。腸が煮えくり返るほどの自己嫌悪を。

 

ヘヴィメタルは破壊神だ。プラスの感情を増幅させ、マイナスの感情をなぶり殺す。少し前にヘヴィメタルが心を和らげるという研究結果が欧米で発表され、話題を呼んだ。だが、あの研究結果は肝心なことを伝えていない。ヘヴィメタルを聴くことで、様々な感情が重低音に乗って吐き出される。心の中に巣食う不純物を吐き出したから、結果的に心が穏やかになるのだ。スタバでフラペチーノをすすりながら、Air Podsでスレイヤーを聴いた途端に気分が穏やかになる。……なんて思ったら大間違いだ。

 

ヘヴィメタルは、じっと椅子に腰を据えて聴く音楽ではない。行動するための音楽だ。体を動かしながら聴いている時に、あの至高のグルーヴ感はやって来る——気の重い商談へ向かう道すがら。本当はやりたくない家の掃除をしている最中。ジムでトレーニングに汗を流す時。外界へ意識が向いている時こそ、感情が揺れ動く。そこへメタルの激しい旋律が加われば、自然と体が動き出すほどの圧倒的なグルーヴ感を味わえる。首がもげるようなヘッドバンギングは十分条件であって、必要条件ではないのだ。

 

トランキライザー:プレイリスト

プレイリスト


私にとってヘヴィメタルは精神安定剤精神安定剤(トランキライザー)だ。お気に入りのアルバムを全部ぶち込んだプレイリストの名前にも、この言葉を採用している。その中でも、特にお気に入りのアルバムを披露しよう。

 

Ebony Tears : A Handful of Nothing

メタルの聖地スウェーデン出身のメロディックデスメタル・バンド。活動期間は短いが、その間にリリースされたアルバムはメロディックデスメタルを語る上で外すことのできない傑作ばかりだ。圧倒的な攻撃力を伴ったヴォーカルのデスボイス。そこへ叙情的なギターリフが聴く者の耳へ美の迫撃砲をぶち込んでくる。

 

Dark Tranquillity : Fiction

スウェーデン出身のメロディックデスメタル・バンド。私にメロデスを開眼させたのは、このバンドだ。ミニマルで洗練されたアルバムワークから、彼らの美的センスがびしびしと伝わってくる。だが、フィッツジェラルドが言うところの「創造的気質」に染まった軟弱さは微塵もない。全曲を通して駆け抜ける疾走感と、超絶技巧のヴォーカルが耽美的なメロディーの中に暴虐性を織り込んでいる。

 

Heaven Shall Burn : Wanderer

ドイツ出身のメロディック・メタルコアバンド。ジョン・コリア作の『ゴダイヴァ婦人』をアルバムワークに採用するような、クリエイティビティに富んだバンド。前述のDark Tranquillityと同じく、美と攻撃性のバランスが取れたオーセンティックなメロデスを繰り出す。最新作のWandererは、彼らの最高傑作に仕上がっている。海岸に押し寄せる波のように、穏やかな重量感を伴った美旋律。太く、芯の強いヴォーカルのデスボイス。そして、サビの部分でピークに達する美と暴虐性のコントラスト。2018年の年間ベスト・アルバム。

 

Judas Priest:Painkiller

イングランド出身のヘヴィメタルバンド。1990年のアルバムとは思えないほど、完成されすぎている。最近の売れ筋メタルバンドが束になってかかっても、これだけの完成度は望めないだろう。圧倒的な攻撃力と、しなやかなハイトーンボイス。メタル・オブ・ゴッドの名にふさわしく、デビューから40年を経てもなお後続メタルバンドの追随を許さない。

 

Slayer:Reign In Blood

アメリカ出身のスラッシュメタル・バンド。スラッシュ・メタル界の生ける伝説。メタリカ、メガデス、アンスラックスと並んでBig4と形容されるが、スレイヤーは他の3バンドと一線を画す。メタリカ、メガデスがヨーロッパ的な感覚を取り入れようとしている時期にあっても、スレイヤーだけはブレなかった。

 

デビュー当時から首尾一貫した、殺意すら感じるほどの疾走感と攻撃的なメロディーは、今なお褪せることはない。スレイヤーは暴力と残虐性の極致だ。叙情的なメロディーも、インテリぶった政治的思想も、彼らの音楽性には皆無だ。無駄なものが一切ない。これでもかと荒れ狂う音楽性は、シックでカオティックな美を内包している。触れるものを容赦なく切り裂く日本刀のような鋭さは、聴く者の日常にスレイヤーという華を咲かせる。

 

Lazarus AD : The Onslaught

スラッシュ・メタル界に颯爽と登場して消えていった伝説のスラッシュ・メタルバンド。たった2枚のアルバムを残して、突如解散したのが残念でならない。全曲を通して突進し続ける、硬派でオーセンティックなスラッシュ・メタル。

 

Endless Nightmare:Thousand Eyes

我が国、日本がほこる純国産メロディックデスメタル・バンド。ヨーロッパ的でもなく、アメリカ的でもない、日本のメロディック・デスメタルを発表し続けている。日本には優れたメロディックデスメタル・バンドが多い。Veiled in ScarletSerenity In MurderGYZENo Limited SpiralShatter Silence、いずれのバンドもメロデス界で独自の地位を築いている。中でも、Thousand Eyesは私が最もヘビロテしたバンドだ。ONE THOUSAND EYESのラスト1分半、螺旋状に上昇し続けるサビ部分のメロディーだけでも聴く価値は十二分にある。美と暴虐の織りなす圧倒的なグルーヴ感が、恍惚としたカタルシスをもたらしてくれる。

 

Amon Amarth:Twilight of The Tunder God

 スウェーデン出身のメロディックデスメタル・バンド。疾風怒濤のメロディーは、さながら荒波を進む船のような力強さを帯びている。ヴァイキングや、北欧神話をシンボルにした曲も多く、独自の世界観で聴く者を非日常へと誘い込む。

 

Overkill:Ironbound

アメリカ出身のスラッシュメタル・バンド。飛び跳ねるようなギターリフと、空を切り裂くようなハイトーンボイスが最高にクール。最初から最後まで、脇目も振らずに疾走し続けるメロディーには、強烈なエネルギーが溢れている。