Hush-Hush: Magazine

映画の批評・感想を綴る大衆紙

日本のドラマと海外ドラマの見え方の違い

動画配信サービス タブレット端末

 

 

私は日本のTVドラマをほとんど見ないのだが、番宣CMを見かけるたびに、胸中で1つの疑問がもたげてくる。どうして、日本の映像作品は西欧諸国のルックを採用しないのだろうか、という疑問。もっぱら洋画と海外ドラマしか見ない私の目には、日本のルックは眩しいほどに明く感じる。陰影は薄く、色彩は鮮やかで、全体的にフラットな感じがする。この日本のルックに、どうしても馴染めない。多くの人にとっては些末な問題なのかもしれないが、私にとっては長年の疑問だった。A故にBのような、単純な因果関係で解決できる問題ではないが、いくつかの仮説を基に検証してみようと思う。

 

ルック:

元々はアメリカの映画業界用語。
その映画や映像のビジュアルの映像的印象のこと。
この映像は全体的に青い映像の印象がある=このLOOKはいいね。というように使う。
日本では「ビジュアルイメージ」などと言うとわかりやすいか。

 

アニメ用語、絵コンテ用語、映像用語、井上ジェットのカメラワーク大辞典

 

フィルムルック:
1秒間に24コマで撮影することが基本のフィルムカメラが出す独特のブレ感というか、シャープ過ぎない映像と、特定のフィルムで撮影した時の色合いを言う事が多い。

 

[土持幸三の映像制作101]Vol.36 デジタル主流の世の中にある「フィルムルック」 - PRONEWS

 

平面と親和性の高い日本人

 

日本の映像作品の中にも、西欧寄りのフィルムルックを追求した作品はある。身近な例だと、長澤まさみを起用した台湾観光局のCMや、伊右衛門のCMだ。大友啓史監督の龍馬伝も、西欧テイストのフィルムルックを追求したが、視聴者の反響は芳しくなかったようだ。

 

日本人は西欧寄りのフィルムルックが苦手なのだろうか?映像に近い芸術、絵画をたよりに考えてみる。往年の日本画と西洋画を比べて見たとき、まず目を引くのが構図の違いだ。江戸時代に隆盛を極めた浮世絵や、国宝級の絵巻物も、日本の絵画は平面的な構図で描かれていることが多い。立体感が存在しないわけではないが、西洋画と比べると、全体的にフラットな印象を受ける。見たままをタブローに再現しようと試みる、写実的な西洋画に対し、日本画はよりミニマルに現実をデフォルメして再構築する

氷川祭礼絵巻

氷川祭礼絵巻(1826年)

丸子 名物茶屋

丸子 名物茶屋(1833年)

また、西洋の絵画にはパースが存在し、陰影によって立体的な質感を伴ったものが多い。画材の違いや、塗り方の違いに依る部分も大きい。ルネサンス期に入り遠近法(パースペクティブ)が採用されてから、西洋画はリアリティーを獲得した。

 

ネットで古い日本画について調べてみると、西洋寄りの写実的な描写を試みた作品もいくつか出てきた。だが、これらの作品は日本画の中でもマイノリティーに属する。デフォルメされた、フラットでミニマルな日本画が多数を占め、今なお根強い人気を誇っている。

 

西洋画は宗教をベースに発展してきたのではないか。聖書や神話のストーリーを説得力を持って伝えるために、空想の産物だと一蹴されないために、リアリティーを伴ったルックが要求されたのではないか。そこへ、ルネサンス期に突入して解剖学や科学などのアカデミックな要素が加わり、現実を観察する必要性がパースペクティブを生み出したのではないだろうか。

日本画は、人々の生活をベースに発展し、それらをデフォルメして描くことで雰囲気を表現することに主眼を据えたのではないだろうか。

 

補足記事:昔は日本で立体的な絵が描かれなかったのはなぜ?:哲学ニュースnwk

哲学板のまとめ記事だが、様々な角度から日本画と西洋画を比較していて面白い。

 

西洋画 日本画
写実的 デフォルメ
精緻 ミニマル
陰影のはっきりとしたライティング フラットなライティング
稜線が無い場合が多い 稜線がある場合が多い
パースペクティブがある パースペクティブに頼らない遠近感がある


日本人は平面に囲まれている。ジャパニメーションとして海外でも高い評価を得ている日本のアニメ作品も、手描きという制約上、平面の呪縛からは逃れられない。もっとも、最近では3DCGを導入した映画的なカメラワークを用いた作品もあるが……(Ufotableはその草分け的なプロダクションだ)

 

また、武家屋敷のような古代の日本家屋も直線を主体とした平面的な美しさを持っている——銀閣寺の書院造りのような平面的な空間に安らぎを覚えるのは、日本らしい感性だ。生活様式の中に織り込まれた平面も、日本画の発展にサブリミナルな影響を与えていたかもしれない。

 

日本人は平面的な構図と親和性が高いのではないか。平面の中に美を創り出す。これこそ、日本人の培ってきた美的センスなのではないだろうか。

 

色彩感覚とカラーグレーディング

海外ドラマの中には、際立った陰影と抑えた色調のフィルムルックを採用した作品が多い。対して、日本のTVドラマはどうだろうか?陰影は抑えられ、照明は過度に明るく、色彩は鮮やかに仕立てられる。海外ドラマと比較すると、やはり全体的にのぺっとしたフラットな印象を抱く。

 

映像作品のポスト・プロダクション段階として、カラーグレーディングという工程がある。映像全体の明度、彩度、色合いなどを調整する作業だ。

  

このカラーグレーディングによって、映像に一定の質感を付与することは可能なはずだ。Googleで「カラーグレーディング ドラマ」などのキーワードで検索してみたところ、日本のTVドラマにおけるカラーグレーディングの事例が出てきた。どうやら、日本でもカラーグレーディングは施されているらしい。ともすれば、日本のドラマは色味を抑える選択肢を持ちながら、敢えてそれを突っぱねているということになる。やはり、強調された陰影と控えめな色彩は日本人受けしないのだろうか?

 

海外ドラマの中でも、日本のTVドラマに近いルックを採用した作品も存在する。だが、概して海外ドラマには映画寄りのルックを採用した作品が多い。なぜなのだろうか?

日本のルックに近い作品 NCIS / 24 / スーツ 予算が少なめの作品や、2010年以前の作品が多い傾向。
洋画風のフィルムルックを採用した作品 SHERLOCK / ハウスオブカード / True Detective / SINNER シリアスなストーリーの作品に多い傾向。
中間的なルックを持つ作品 Game of Thrones / ホームランド / ブレイキング・バッド エンタメ性の高い作品に多い傾向。

 

日本人と欧米人の虹彩の違い

欧米人はサングラスをかけないと太陽光が眩しいと感じる、といった類の話は聞いたことがあるだろう。我々、日本人にとっては明るい光でも、虹彩の薄い欧米人にとっては眩しいと感じることもあるそうだ。この身体的な違いも、欧米が映画寄りのルックを採用したがる一因ではないだろうか。

 

予算規模の違い

ストリーミングサービスの台頭によって、海外のTVシリーズは戦国時代へ突入した。一昔前のインターネットと同じように、大量のコンテンツを必要としている——消化不良を起こすくらいの膨大なコンテンツを。それに伴って、TVシリーズに割り当てられる予算額も増加の一途をたどっている。ゲーム・オブ・スローンズ 1話分の予算は、邦画3本分の予算に充当する。

 

海外ドラマ 予算

Source:The 7 Most Expensive TV Shows Of All Time

What's the budget of your favorite tv show? - IMDb

http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/yosan/yosan26/pdf/siryou.pdf

250億円? NHK代表的な番組の製作費は?

邦画の平均的製作費は一本当たり3.5億円。マッドマックス3分作れない - Togetter

 

潤沢な予算が組まれた作品は、当然の施策として多くの視聴者を呼び込める人気俳優を起用する。これと同じことが映像クリエイターにも起こる。つまり、高額なギャラを提示して映画畑の技術者をTVドラマの製作現場に呼び込むことができる。また、映画監督にとっては、映画より長い尺で物語を語ることのできるTVシリーズという形式は、自身の表現を遺憾なく発揮できるキャンバスになりうる。TVシリーズの制作陣とフィルムメイカーにとって、互いにWin-Winの関係というわけだ。


ネットフリックスで配信されている海外ドラマを見ていても、クレジットにアメリカ映画編集者協会(ACE)や、全米撮影監督協会(ASC)全米製作者組合など(PGA)の肩書を伴った名前を目にする機会が増えたように感じる。映画畑のクリエイターが流れ込めば、海外のTVシリーズが映画寄りのフィルムルックを採用するのは当然の流れではないだろうか?

 

カメラや照明などの機材スペックの違い

増大した予算と、熟練した職人を獲得した海外のTVシリーズは、撮影機材も映画と同じレベルのものを採用できる。被写界深度、ダイナミックレンジともに映画と同等の機能をもつフィルムカメラの導入だ。現在ではクリシェと化した、役者の目を超クロースアップで映すショットなど、一昔前の海外ドラマでは表現できなかった。こういった技術的な躍進を背景として、TVシリーズのルックは映画寄りのフィルムルックを追求し始めたのではないだろうか。

 

ジャンル固有の硬さによる違い

コメディタッチの作品は明るめのルックが多く、サスペンスものや現代ドラマものなどのシリアスな作品は暗めのルックが多い。これが映画の定説だ。

日本のドラマシリーズでも、刑事モノなどリアル路線のシリアスな作品には暗めのルックを採用した作品もある。(他の日本のTVシリーズと比較すれば、たしかに暗めのルックだが海外ドラマと比較すると、やはりフラット感は拭えない)

その逆に、海外のドラマシリーズでもコメディ色の強い作品では、明るめのルックを採用するのが一般的だ。

 

とどのつまり

全ての日本の映像作品は明るめのルックで、海外の場合はすべて暗めだと、一概には言えない。だが、全体的な印象としては、やはり日本のルックは明るくフラットで、海外のルックは暗く陰影に富んだものが多いように感じる。

 

何だが、思いついたことを縷々と書き連ねただけになってしまった。そもそも、私が抱き続けてきたこの感覚自体、いったいどれだけの人が共感してくれるのだろうか。あまりにも漠とした疑問であるがゆえに、検証するのも骨が折れる。ある1つの要因によって、この感覚が生じたというほどシンプルな問題ではないと思う。より複合的な、いくつもの要因が重なって、この感覚——というか疑問——が生じたのだと思う。

願わくば、映像業界に明るい方々が、この疑問を解きほぐしてくれる日がくることを祈るばかりだ。