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Euphoreon | Ends of the Earth:ドイツとニュージランドの混血バンド

Euphoreon | Ends of the earth

 

作品情報

リリース日:2018年 4月 20日

レーベル: なし(インディーズ)

レングス:47分57秒

ジャンル: メロディック・シンフォニック・メタル

 

ソングリスト
  1. Euphoria
  2. Ends of the Earth
  3. Zero Below the Sun
  4. Mirrors
  5. Cravenness
  6. Oblivion
  7. The Grand Becoming

 

メンバー

Matt Summerville:リードギター、デス・ボーカル担当。

Eugen Dodenhoeft:リズムギター、ベース、クリーン・ヴォーカル、エンジニアリング担当。

Patrick Stäudle:本アルバムでのゲスト。ピアノ担当。

 

2009年にMatt Summervilleが始めたソロ・プロジェクトに端を発するメロディック・デス・メタルバンド。本作『Ends of the earth』は前作から7年振りのリリースとなる2作目のアルバム。2009年、Matt Summervilleは『Before The Blackened Sky』というタイトルのデモを一人で完成させる。そして、仲間内で好評を得たこのデモを片手にプロデューサーを探し始めたのだった。そこで出会ったのがEugen Dodenhoeftだ。

 

Disarmonia Mundi(ディサルモニア・ムンディ)のエットレ・リゴッティもそうだけれど、作曲から演奏まで、しかもギターからドラムス、ベースまで全部一人でこなせるミュージシャンってホント天才だと思う。メタルではないけれど、日本だと斉藤和義さんも一人で作詞作曲から演奏までこなしてしまう器用なミュージシャンだ。

 

ジャズピアニストだった母の指導の下、私も幼少期にはピアノの鍵盤を叩いたことがあったけれど、性に合わなかったのかすぐに放り出してしまった。音楽をかじったとすら言えないレベルの私だけれど、一人で全てのプロセスをこなすことの難しさは想像に難くない。彼らの頭の中はどういう構造になっているのだろう。日常生活をどういう視点で見つめているのだろう。Euphoreonの奏でる、雪山を連想させる北欧的な美しいメロディーに浸りながら、ふとそんな疑問が浮かんだ。

 

ニュージランドとドイツの混血バンドであるEuphoreonの特徴は、北欧的な叙情性と、これでもかと炸裂する哀愁的なギターリフだ。切なく咆哮するギターリフにシンフォニックなヴォーカルが覆いかぶさる。いわゆるクサメロに分類される、日本人好みの流麗なメロディー。凡庸なメロデスバンドならば、サビの部分に向けて切なさを盛り上げていくのが定番だが、Euphoreonは違う。通常ならば中休みを挟む中盤の部分ですらも、執拗にツインギターが炸裂してテンションを保つ。いや、つねに上昇し続けると言ったほういいかもしれない。ジャズにおけるサックスが、多彩な演奏でまるで生きているかのように感じると同じく、Euphoreonのギターリフにも血が通った生気がある。

 

1作目のアルバムはバンド名を冠した所謂、Self-titled(セルフ・タイトル)の形式をとっている。全体的には本作『Ends of the earth』にも通ずる叙情性があるのだけれど、本作よりも更に耽美的というか、繊細すぎて弱々しい感じがあった。触れると割れてしまうような、脆くてか弱いセンチメンタリズムのようなものが感じられた。一方、2ndアルバムとなる本作は美しさは維持しつつも、より洗練されていて北欧的な耽美主義からの脱却を図っている。

 

DARK TRANQUILLITY(ダーク・トランキュリティ)によってメロデスの洗礼を受け、At the gates(アット・ザ・ゲイツ)の『slaughter of the soul』を聴いた瞬間にメタルの美しさに魅了された私だが、Euphoreonの『Ends of the Earth』はそんな私のメタル遍歴の中に新たな道標を打ち立てた。当ブログ「Hush-Hush: Magazine」では、私の主観に基づいておすすめ度を星の数で表しているが、このアルバムに関して言えば星の数20くらいでは少なすぎるくらいだ御託を並べるよりも、実際に聴いてみてほしい。アルバムのアートワークにも垣間見えるモダンで繊細な美的感覚に富んだメロディーを。大仰なオーケストレーションの中に織り込まれた力強いギターリフを。

 

ソニック、Brymir、Dark Oathあたりが好きな人はハマること請け合いだ。非常にざっくりと言ってしまえば、Brymirのシンフォニック性とSerenity in Murderのペーソスをかけ合わせた感じと言える。

 

1:Euphoria

 

イタリア語で幸福感を意味するEuphoria(ユーフォリア)を名に冠したオープニングナンバー。オーケストラ調のコーラスと共に始めるオープニング。ひつこいくらいにツインギターが唸り声をあげ続ける。だが、心地よいグルーヴ感こそあれど、くどさは微塵もない。曲全体を通して跳びはね、駆け巡りつづけるギターリフ。適度な疾走感を演出し続け、堅実にビートを刻むドラムス。映画的なクライマックスを迎えるラスト30秒は、思わず胸が熱くなった。女々しくフェードアウトすることなく、ずぱっと断ち切る曲の終わり方も美しい。

 

2:Ends of the Earth

 

開始そうそうにクサメロを轟かせるギターに心を奪われた。日本のメロデス然とした、切なさと暴虐性の同居したクサメロ。北欧のメロデスほど耽美的すぎず、北米サウンドほどには商業色に染まっていない————音楽はその国の気候・風俗に影響を受けるとは言うけれど、日本のメロデスバンドが奏でる繊細なメロディーはまさしく四季折々に違った表情を見せる日本の気候を体現しているかのよう。Euphoreonもまた、適度な疾走感と程よいボリュームのヴォーカルが耳に心地よく響き渡る。最後に挿入される雨音が、1日の仕事を終えて帰路につく際の満ち足りた疲労感のような余韻を漂わせる。

 

3:Zero Below the Sun

 

ヴァイキング・メタル調のスピード感と重量感を備えたメロディー。加速し続けるドラムス、煽るようなギターリフ。それらが渾然一体となって、体中を駆け巡る。8分間の壮大な叙事詩————曲の長さを感じさせない巧みな曲展開が素晴らしい。

 

4:Mirrors

 

シンフォニック・メタルらしくエピックなイントロ。前曲までの荒々しさは抑えられ、比較的穏やかな仕上がりの1曲。穏やかになった分、サビの部分で醸し出す甘美的な美しさは増幅されている。Thousand Eyesの奏でる心を掻きむしられる切なさというか、風呂上がりにベランダから眺める夕日のような儚い美しさが満ち溢れている。

 

5:Cravenness

 

「臆病」を意味する曲のタイトル通り、感傷的なメロディーに思わずうっとりとしてしまう。やや高音のギターリフは、あたかもむせび泣くエルフのよう。自分の臆病さを自覚しながらも、それを克服できずにいる葛藤————そんな内的な衝突を表現したかのような美しい旋律の嵐が、私の心を洗い流した。

 

6:Oblivion

 

GYZE(ギゼ)的なメロウなイントロ。7分間というやや長めのレングスを活かした起伏のある構成が素晴らしい。アルバム序盤で見せた、ひつこいほどうねりをあげるギターリフは鳴りを潜め、ひたすらにメロウで耽美的な世界観を構築しようと奮闘する。曇天が重く垂れ込めた北欧の山々に差す一条の光のように、アルバムの中でもひときわ輝きを放つ1曲。

 

7:The Grand Becoming

 

ぽつぽつと滴る雨のようなピアノで始めるラストナンバー。ジャパニーズ・メロデス然とした終焉の儚さを湛えたメロディーは、アルバムが終わりに向かっていることを告げつつ、まだ終わってほしくないという名残惜しさを感じさせる。例えるなら、旅行の帰り道のようなうら寂しさ。旅行での思い出を何度もなんども思い返しながら、明日に待ち構える現実から必死で目をそらすような、そんな寂しさと名残惜しさが同居した1曲だ。

 

おすすめ度 